「シンデレラの謎~なぜ時代を超えて世界中に拡がったのか」(浜本隆志 著・河出書房新社2017年)という本についてです。
浜本隆志氏は、関西大学名誉教授。文学部長も務められたドイツ文学者です。
シンデレラの物語はグリム童話で知られていますが、実は同じあらすじの話は世界中にあります。しかも、グリム童話が19世紀に書かれたものに対して、ずっと古くから存在しています。

日本では10世紀、平安時代に書かれた「落窪物語」が有名です。理路整然とした物語で、その後の「源氏物語」に影響を与えたといわれます。
「落窪物語」のあらすじは、中納言忠頼の娘である姫君は母と死別した後、継母にいじめられて”落窪の間”に住まわせられ、粗末な生活を強いられている。
そこに右近の少将という高位の貴公子が現れて、落窪の君を見そめる。紆余曲折の後に二人は結ばれ、継母に復讐を果たすといった内容です。
これが本邦最古のシンデレラ物語ではなく、さらに時代を遡って東北地方の民話に「糠福と米福」というものがあって、こちらのほうがもっとシンデレラっぽいというか、シンデレラそのものです。
ある村に、母と死別した糠福という娘がいた。継母は連れ子の米福を可愛がって糠福をこき使っていた。あるとき村長は祭りを開いたとき、家に残って仕事をさせられていた糠福のところに山姥が着物や履物を貸してやるから祭りに行けと促した。村長の息子は祭りで糠福をみそめ、糠福は家に逃げ帰るときに履物を片方落として・・・・。
浜本氏によると、シンデレラ物語の原型は紀元前5世紀のエジプトにあるそうです。その後、中近東からシルクロードを戻ってユーラシア大陸を東へと伝播して、10世紀の落窪日記に行きついた。また、トルコから南欧を経由して19世紀のグリム童話へとヨーロッパへのルートもあったというわけです。
どんな人にも平等に与えられている時間というものを基軸にすると、世界は広いようで狭いということです。そして、人種や文化や宗教の違いがどれほどあっても、紡ぎ出す物語にはあまり違いがありません。