偽物と本物の違いは、知っているか知らないか

大阪市で画廊を営んでいた50代の画商と、奈良県大和郡山市にある版画工房の経営者が共謀して、東山魁夷や平山郁夫などの作品をもとにした偽物の版画を制作して販売していました。著作権法違反の疑いで逮捕されたのですが、偽物の版画はこれまでに100点以上が確認されていているそうです。

 

東山魁夷「白馬の森」
東山魁夷「白馬の森」

ニュースを見たときに、版画の偽物をつくって販売した詐欺罪なのだと思いました。ところが、よく聞くと元は絵画なんですね。絵画という著作物を無断で複製した版画をつくったことが著作権を侵害したというわけです。

 

実際に東山魁夷の絵画「白馬の森」という作品はデジタル技術を駆使した版画として、たくさん売られています。売られている版画は、著作権者である東山魁夷記念財団(東山魁夷さんは22年前の1999年に亡くなっています)の許可・承認を受けてつくられています。

 

ここで、俄かに疑問が浮かぶのですが、元が絵画を版画にしたのですから、そもそもどちらも偽物です。購入者も偽物として買うわけですよね?著作権許可があるか無いかはともかく、デザインというかモノとしての芸術としての価値は変わらないわけです。

まぁ、他人の考案を勝手に模倣して価値を得ることは卑怯なこととは思います。ただ、著作権を管理するということの意味を考えると、この偽物がよい技術を持った版画工房でつくられていた優れた作品のようなので、ちょっと複雑な気持ちにもなります。

 

絵画である「白馬の森」でも、最新のデジタル技術を駆使すれば、全く同じものを作ることは可能と思います。純粋な芸術作品として取り上げれば、両者の間に例えば感動の差はないわけです。両者の差異は、この絵を見る人がこの絵を誰が描いたのかを知っていて、その人の権威というか、あるいは人生というか、何らかの知識によって心の動きがもたらされるのです。

 

もちろん、著作権には複製権も含まれるわけ、この犯人グループが違法行為をしていることは確かで、けしからんのです。しかし、芸術の価値とか、既に亡くなっている作者の意思まで考えると、なんかちょっとモヤモヤします。