ベトナムの林檎。白い雪が育んだ赤い知恵の実

 15年くらい前のことです。林檎をスーツケースにいっぱい詰めてベトナムに行きました。

 

ベトナムの会社の責任者に「お土産何がいい?」と訊ねたら、「日本の美味しい林檎をできるだけたくさん」という返事です。少し困惑したのですが、キャリーケースを買って、ちょっと高級な食品スーパーで、日本産のブランド林檎を大量買いしました。ベトナムで、日本の林檎がものすごい大歓迎で迎えられるのは気恥ずかしいほどでした。

 

山口市徳佐の林檎
山口市徳佐の林檎

 林檎の原産地は黒海とカスピ海にはさまれたコーカサス地方です。国でいえば、ジョージアとかアゼルバイジャンとかになります。コーカサスは「白い雪」という意味です。

 

コーカサス地方の白い雪に育まれた赤い知恵の実は、西は小アジアを経由して、4000年くらい前にはヨーロッパ全土へと広がりました。同じ頃に、東はシルクロードを経由してゆっくりとアジアへと伝わります。日本には平安時代に中国大陸から伝来しました。

 

もともと林檎は小果で、食用というよりは観賞用や果実酒の原料に使われていたようです。

西に伝わった林檎は、肉食と相性が良かったことから品種改良が進んで生食に使われる西洋リンゴになっていきます。東に伝わった林檎は、魚食文化には合わなかったようで、積極的に食用にはならなかったようです。日本でも林檎(和りんご)は小ぶりで美しい赤色を活かして、観賞用(盆栽)や仏様の供物などにしていたようです。

 

日本に西洋リンゴが伝来するのは、アメリカからで、明治になってからのことです。日本で林檎消費が増えていった西洋リンゴの品種改良が大きく進むのは、昭和になってからです。日本の林檎の品種別生産量で半分を占める”ふじ”は昭和37年に登録された品種です。”ふじ”の親は、明治にアメリカからきた”国光”です。今のような林檎(西洋リンゴ)の歴史は、意外にも短いのです。

☞ 2020/09/23 梨は2000年前から、林檎は130年前から

 

現在、林檎は世界の果物のなかでバナナについで2番目の生産量=消費量です。世界の林檎の4割は中国で生産され消費されます。その中国でつくられる林檎の半分以上が”ふじ”です。”ふじ”はアメリカでもたくさんつくられるようになり、生産量世界一の林檎です。 

 

日本からベトナムへの林檎(生果実)の輸出は2015年に始まったそうです。昨年はインドへの輸出もはじまりました。日本の林檎は”ふじ”をはじめ多彩で、味の芸術品です。

これからの林檎輸出の拡大は大いに期待されます。