循環取引は蜜の味。なかなか無くならない

循環取引とは何か教えて?と言われたので、ちょっと書きます。

 

私も被害?にあったことがあるのですが、循環取引は巧妙に実行されると、かなり長期間に渡ってばれません。循環回数が増えていくと取引金額は雪だるま式に増えて高額になります。2019年に発覚したネットワンシステムズを中心に東芝・富士電機・日鉄・みずほなどの名前を冠したIT企業9社による循環取引では総額1000億円超えています。

 

循環取引は、取り引きされる商品が形のないソフトウェアである情報通信業でよくおこなわれます。リースなどサービス業や海外貿易を含む卸売業などででも高額な架空取引の事例があります。ITなど新しい業界では、同業者のなかに仲間がいることが多いので、結託しやすいようです。

 

一方で、製造業など実物が存在する循環取引では当事者に不正の意識が希薄なケースもあります。古い業界では、いわゆる飛ばしのようなことが業界の習慣になっていたことが背景にあります。

 

上場企業でも、年間10~20件の循環取引あるいはそれに類する架空取引事例が発覚しています。発覚しないでもみ消された取引は無数にあると思います。大企業の場合は、子会社や関連会社を使った循環取引を企てるケースが多いようです。

 

循環取引の手口を簡単に言うと、次のような事例です。

A社に100円の商品があったとします。A社はB社に商品を110円で売ったことにします。しかし、商品はA社の倉庫に置いたままです。B社は110円で仕入れた商品をC社に120円で売ったことにします。商品はA社の倉庫にあります。C社は120円で仕入れた商品をA社に130円で売ります。これで1循環です。

 

この取引では、商品はA社の倉庫に置かれたままです。A社では現金が20円減って、B社とC社ではそれぞれ現金10円が増えたわけです。A社は現金を失うにも関わらず、何故に循環取引をB社やC社に持ちかけるのかというと、A社に売上高を多く見せたい何らかの理由があったのです。また、計算書類上ではA社は棚卸資産が30円増えるだけで、損失を計上するわけでもありません。

 

この商品を移動させない循環を何回も回す手口では、最終的に棚卸資産評価額が100倍以上になり、6年間で総額1000億円近い不正取引が発覚した食品会社(加ト吉)の事例がありました。100倍ともなると、この間の実地棚卸はどうなっていたの?という素朴な疑問がでてきます。もっとも、棚卸の都度、わざわざ偽物の商品を準備して5年半も胡麻化し続けた飲料会社(メルシャン)という事例もあります。

 

この例のような循環取引には出口が無いので、A社に支払う現金が無くなった時点で破綻します。しかし、売上高が続伸し利益も上がっているA社は、金融機関がお金を貸してくれるので、数年といった意外に長い期間でも現金が続くわけです。また、循環取引のなかには金融機関や監査法人が積極的に関与していた事例もあります。

 

循環取引は日本の商習慣が下敷きになっているという指摘があります。しかし、2001年にアメリカの巨大エネルギー企業エンロンが160億ドルの負債を抱えて倒産した事件も、デリバティブを利用した一種の循環取引でしたから、どこの国でも気をつけないといけません。