ロシアからの海上ルートはどれも厳しい

ロシアのウクライナ侵攻による穀物輸出の停滞が世界的な食糧危機につながりそうです。

 

世界地図を改めて眺めてみると、ユーラシア大陸の北部を占めるロシアの、果てしない大きさがわかります。ロシアはウラル山脈を境にして、西はヨーロッパロシア、東はアジアロシアに分かれます。ヨーロッパロシアは、約400万㎢の面積で1億1千万人の人口です。アジアロシアは、約1300万㎢に約3500万人が住んでいます。但し、大半は西シベリア平原の住民で、日本に近い極東連邦管区の人口は650万人ほどです。

 

ユーラシア大陸の北半分
ユーラシア大陸の北半分

ヨーロッパロシアの面積は、ヨーロッパ全体の40%を占め、なんとインド(約330万㎢)よりも広大です。しかし、かつてのロシアは北ヨーロッパ平野全体を支配していたので、随分と小さくなっているのです。

 

北ヨーロッパ平野は東はウラル山脈、西はカルバティア山脈、南はコーカサス山脈、北は北極海で区分されます。

現在のロシアは、東と北では北ヨーロッパ平野を切れ目なく支配しています。南側も何とかコーカサス山脈の北、チェチェンまでの支配を確立して、山脈を越えたジョージアの一部にも勢力を伸ばしています。

 

ロシアにとって問題なのは西側です。モスクワからほんの数百㎞でフィンランド・エストニア・ラトビア・ベラルーシ(ここは親ロ政権)・ウクライナとの国境に到達します。ウクライナとカルパティア山脈との間にはモルドバもあり、バルト海に達する平野には、リトアニアとポーランドがあります。これらの国は、いずれの国もEUやNATOに属したり、属そうとしています。この状況はプーチンには許せないのでしょう。

 

ここで、陸ではなく海に注目してみます。

もう一度、地図をよく見てみます。ロシアの北には海が広がっていますが北極海です。地球温暖化によって海氷は減少していますが、それでも冬に港を使うのは困難です。

 

ロシア(ヨーロッパロシア)の船が世界の海に進出するには、2つのルートしかありません。

1つは、今回の争いになっているウクライナのクリミア半島にあるセパストポリ港を使って黒海から、トルコが管理するボスポラス海峡を通って、ギリシア沖のエーゲ海を経て、地中海に出て、エジプトが所有するスエズ運河を通るか、イギリス軍とスペイン軍が駐留するジブラルタル海峡を通過するルートです。

 

もう1つのルートは、サンクトぺテルブルク港(ウスイルーガ港)からバルト海を通って、デンマークとノルウェーが管理するスカゲラク海峡を抜けて北海に出て、グリーンランドとアイスランドとイギリスという3つの島に囲まれたGIUKギャップという海域を通過するルートです。グリーンランド(デンマーク領)の所有権をロシアが主張しているのは意味があります。

 

簡単に言えば、西側諸国が結束すれば、陸の大国ロシアと言えども、海上貿易を自由にすることはできません。一方で、ロシアの海上ルートを完全に閉ざすと、アフリカなどの途上国で食糧危機が悪化するという問題もあります。

 

なかなか悩しいうえに、アジアロシアまで視野に入れると、ロシアという国を世界の海と結ぶもう一つのルートがあります。ウラジオストク港など極東の港です。今のところ、かろうじて日本が支配している日本海を通るルートです。どうも、ボ~ッとしては、いられません。