同一労働同一賃金の義務を裏返すと、同一労働でないのに同一賃金としているのは違法です。
例えば、ある日、AさんとBさんが同じラインに入って、同じ仕事をしているとします。AさんとBさんは同一の労働に就いているので同じ賃金となるでしょうか?
実は、Aさんはベテランでこのラインの仕事の原理を知っています。Bさんは新人でマニュアル通りに作業します。ラインで何かトラブルがあれば、AさんはBさんを指導して正常な作業に復帰させる役割を期待されています。この場合、AさんとBさんは総合的にみて同一労働に就いているとは言えません。
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また、AさんとBさんは、そのラインでの経験や能力は全く同じであったとします。Aさんは別のラインでも作業に就くことができますが、Bさんはそのラインでしか作業できないとします。
その場合、Aさんは別のラインのバックアップという労働を、目には見えなくともやっていると言えます。
総合的にみて、Aさんの賃金がBさんの賃金より高いことには合理性があります。
むしろ、同一労働同一賃金だと言って、Aさんの賃金をBさんに合せるようなことをする方が不合理です。
例えば、同じ会社の営業課長でも、担当するエリアや商品などによって、労働の価値は異なります。調理の仕事でも、厨房のなかで切るのか煮るのか役割はいろいろですし、メニューを決めたり、仕入れをしたり、衛生管理に気をつけたりする人もいますから、労働の価値は様々です。それぞれの労働の価値に見合った賃金が支払われるのは当然で、好ましいことです。
つまり、つきつめていけば、どんな会社でもどんな職種でも「同一労働」というものは存在しないのです。それなのに、外形的な労働の姿で、無理に待遇差を縮めたり、また縮めることが良いことだという風潮が蔓延すると、会社のパフォーマンスが低下します。
経営者が、従業員それぞれの労働の役割を合理的に説明して、その労働に見合った賃金を支払うことで、従業員のモチベーションを高めていかなければなりません。