ウクライナで起きた文明の衝突

「文明の衝突」は、アメリカの政治学者サミュエル・P・ハンチントンの1996年の著作です。

 

本を読み返すこともできないので、Wikipedia「文明の衝突」を参照してください。この本が言っていることをすごく乱暴に言えば、現代において戦争はイデオロギーの違いによっておこるのではなく、文明の衝突によって起こる。もっと具体的に言えば「西欧(Western)」と「非西欧」の対立によってもたらされると予言しています。

 

Wikipedia「文明の衝突」より
Wikipedia「文明の衝突」より

ハンチントンの予言は当たっています。ロシアのウクライナ侵略は、イデオロギーの対立でも経済的な利害関係とかで起こったのではなく、当に西欧文明と非西欧文明(ハンチントンの定義では東方正教会文明)の衝突です。東西冷戦のような社会主義と資本主義の対立というイデオロギーの衝突ではないのです。

 

西欧文明は現時点で成熟しており他の文明に対して優越した地位にあります。(ハンチントンは日本をどの文明にも属さない、独特な存在としていますが、準西欧文明の国としてもよいかもしれません。)西欧文明(日本を含む)は、確かに今は優越ですが、明らかな衰退への道をたどっています。西欧文明とイスラム文明の衝突は、アフガニスタンやイラクなどで繰り返しおこっています。西欧文明が世界で唯一の大河ではなくなってきたわけです。

 

西欧文明と中華文明の衝突はいつ起こってもおかしくありません。今はまだ、そのときに地理的に接している西欧文明の国は日本になります。文明の衝突を回避するのに、第二次大戦の戦勝国の権利を守るだけの国連は当然に無力です。では、どうすればよいのか?どうしなければならないのか?を考えないといけません。

 

岸田総理が「自由・民主主義・人権・法の支配といった普遍的な価値」を守り抜く覚悟があると語りますが、自由・民主主義・法の支配などは、必ずしもあらゆる文明に共通な普遍的な価値ではないようです。

素朴に考えれば、いかなる文明の枠を超えた唯一の普遍的な価値は「人命」であって、今よく聞く言葉では「人道」のように思います。世界に「人道回廊」をつくり、少なくとも婦人と子供の生命を守ることが大事な気がします。

 

しかし、今回のロシアによる無慈悲な無差別攻撃の実行や、その他の国や地域でおこっているジェノサイドや人身売買や奴隷制の継続をみると、「人道」が人類共通の普遍的な価値というのも、単なる綺麗ごとのような気がします。