2050年日本のカーボンニュートラルの難易度

菅首相が2050年に日本は炭酸ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを達成すると宣言しました。これはどの程度の達成可能があるでしょうか?

 

日本国のカーボンニュートラル(炭酸ガスの排出実質ゼロ)の定義そのものが曖昧という問題があります。一応は、日本国が、自らの責任とする温室効果ガス排出量を認識して、これを削減する。削減ができない排出量があれば、他の国で実現した排出削減・吸収量等を購入あるいは他の国でプロジェクトを実施して、全部を埋め合わせた状態をいいます。

 

G7 7か国の温室効果ガス排出削減の状況
G7 7か国の温室効果ガス排出削減の状況

最初にややこしいのが、自らの責任とする温室効果ガスの排出量の認識です。

日本の場合は、掘削する段階で温室効果ガスを排出する油田や鉱山がほとんどなく、反芻動物のげっぷが話題になる牧畜の比率が小さいので、まだしも簡単なような気がします。

 

しかし、湿地や水田などで植物を枯らすと温室効果がより高いメタンが発生しますし、温泉なども温室効果ガスを排出するので、これらも自らの責任と言えないわけでもありません。(温泉は火山活動によるものも多いですが、火山が噴火すれば大量の温室効果ガスが大気中に噴出されます。)

 

カーボンニュートラルを正確に計算するのは難しいので、大雑把に考えます。

日本の現在の温室効果ガス排出量(二酸化炭素換算)は、2018年の値で12億4千万トンでした。このとき、日本の人口は1億2600万人ですから、およそ10トン/人です。

日本がパリ協定で約束しているのは、2030年時点の排出量を10億4千万トン以下にすることです。現時点で、この目標は達成できる見込みです。

その後、省エネ技術開発などで、概ね年率1%の排出量削減ができると仮定すれば、2050年の排出量は8億5千万トンになります。

 

ここで、日本の人口減少が加算されます。2050年の日本の人口は、3000万人くらい減って9700万人程度と推定されているので、排出量もその分だけ減ります。7億トンくらいになりそうです。

次に、意見の分かれる原子力発電ですが、再稼働すると仮定します。温室効果ガス排出量の多い電力分野ですから、化石燃料から原子力発電や再生可能エネルギーで代替することで、1億5千万トンを削減するとして排出量は5億5千万トンです。

 

日本の温室効果ガスの吸収量は、陸地の森林と農地で6千万トン、沿岸の海藻類が1千万トンくらいが確認されています。この吸収量は、適切な森林と沿岸藻場の保全で増えていくことと、そもそも現在の算定が保守的なので、2050年には1億トンを吸収すると予想します。

というわけで、2050年に日本の温室効果ガス排出量は4億5千万トンが妥当なところです。

 

カーボンニュートラルのためには、この4億5千万トンをゼロにしなければならないわけです。地中や海中に埋める、温室効果ガスそのものを再利用する、人口光合成で二酸化炭素を消費する、などの技術革新の可能性はかなり高いので、4億5千万トン-αとなります。

それでも3億トンとかは残るかも知れません。

 

残った分は、日本の技術で他の国の温室効果ガス排出量を削減することで補います。 

2018年の世界の温室効果ガス排出量は558億トンでした。日本の人口は減りますが、世界の人口は増え続けており、2050年には100億人を越えます。

2050年の温室効果ガス排出量は、手立てを尽くさなければ、1000億トンを超えることもありえます。世界の排出量削減には、日本の技術が必要になりますから、日本の貢献分をオフセットすれば、温室効果ガス排出量の実質ゼロは達成可能です。