ちゃんとした硯なら、墨は力を入れずに10回磨(す)ればよい

小学校低学年の頃、習字教室に通わされましたが、3回くらい行ったところでやめました。

 

薄い記憶ですが、正座して、好い姿勢で、筆の持ち方は・・という時点で、耐えられなかったように思います。このときは、墨をすっていたのか、もう墨汁を使っていたのか、覚えていません。しかし、50年以上前から墨汁はありました。墨をすったことは、もちろんありますが、何だか時間がかかって面倒だなと思っていました。

 

赤間硯(宇部市の伝統的工芸品)
赤間硯(宇部市の伝統的工芸品)

宇部市には、鎌倉時代から続く赤間硯(あかますずり)という伝統的工芸品があります。

 

ちゃんとした硯で、ちゃんとした墨をすれば、力を入れずに10回ほどすれば、きちんとした墨がすれるそうです。

長門市の星野リゾート界では、「御当地楽(ごとうちがく)」として、ロビーで赤間硯の墨すり体験ができます。参加した方が、ほんとうの墨をするということが、どういうものかを知って驚かれているようです。

 

赤間硯は、赤間石という石を削ってつくります。

【赤間石】山口県南西部で産出する中生代の輝緑凝灰岩。赤褐色で石質が緻密。古来硯石に用いられる。地層は硯石統と呼ばれたが,現在では関門層群という。

 

赤間石の採石
赤間石の採石

硯つくりが、とてもユニークなのは、職人さんが、自ら山に行って石を掘り出すことです。しかも、狭い坑道を地下に数十メートル進んで、発破をかけて、採石します。使われている坑道は、150年くらい前から使っているそうで、今は坑口から30mほど進んでいます。

赤間石の地層でも、地表近くは風化が進んで脆く、逆に深くなると圧縮が進んで硯には向かないそうです。現在の、30mあたりが最も硯に適したところだそうです。

 

赤間硯の表面は、硯のなかでも特に緻密で細かいものだそうです。赤間硯の仕上げでは、天然の泥砥石を使って、表面に人工的な傷はつけません。

「墨は病人に磨らせろ」というように、墨は力を入れずにするものです。そんなに優しくすっても、赤間硯では赤間石本来の凹凸が、漆黒の墨をつくるわけです。