ファクターXを、新しい生活様式で失うことなかれ

新型コロナウイルス感染症が日本人にとって、経済活動を封鎖してまで、恐れるようなものではなかったことを、あらゆるデータが示しているように見えます。

 

専門家も政府も行政もマスコミも、もう引っ込みがつかないので、何とかして大事にしないと拙いと、必死になっているような気がします。感染者の数とか感染のルートではなくて、日本人にとってこのウイルスの病原性がどれほどの脅威なのかを知らせて欲しいところです。何しろ、日本で新型コロナウイルス感染症で800人が亡くなった同じ期間に、40万人以上の日本人が他の疾病や事故で亡くなっているわけですから。

 

図書館
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そんななかで、山中伸弥氏が、日本人にとって新型コロナ感染症が恐ろしくなかった理由を「ファクターX(エックス)」と呼んで探しています。

 

「ファクターX」の候補として、山中伸弥氏が挙げているのが以下の項目です。

・感染拡大の徹底的なクラスター対応の効果

・マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識

・ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化

・日本人の遺伝的要因

・BCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響

・2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響

・ウイルスの遺伝子変異の影響

 

候補のうちで、徹底的なクラスター対応と遺伝的要因はどうも違いそうですし、BCGや何かは関係なさそうに思います。「高い衛生意識」と「冷静で落ち着いた生活文化」はファクターXの要素であることは確かですが、とても大事なことが抜け落ちています。それは、日本の世界で突出した医療介護保険制度です。

 

事実として、新型コロナ感染症の被害者は、ほぼ高齢者と既往症があったり癌治療などで免疫力や体力が落ちている高齢者以外に限られています。既往症のなかには、肥満も含まれます。

(尚、プロ相撲選手の寿命がスポーツのなかでも際立って短いことは、問題だと思います。ボクシング選手は網膜剥離などの眼疾や脳CTによる脳血管障害、肝炎ウイルスへの感染などでライセンスが失効になります。力士も糖尿病など肥満による疾患がはっきりした段階で競技から離れるとしてはどうでしょうか?)

 

さて、世界で最も高齢者の割合が高い日本が、世界で最も新型コロナ感染症による被害が少ないのは何故か? ファクターXは、高齢者あるいは既往症のある人の生活習慣をみれば、そこにヒントがあるはずです。世界のほかの国と、日本との違いはどこにあるでしょうか。

 

日本人が日常的に受けている医療介護サービスがずば抜けて身近だということではないかと思います。日本人の65歳以上の高齢者の2/3は日常的に医院や病院に通っています。その頻度は75歳以上の後期高齢者では平均して年に18回です。つまり、20日に1回の頻度で病院に行っているわけです。病院の待合室で、「あれ?今日は○○さん来てないね。病気かな?」「いやいや、今日は○○(パチンコ店の屋号)が新装開店だから・・」という会話を聞いたこともあります。こんな国は日本以外にはありません。

 

日本人が病院に行くハードルは高くありません。日本では国民皆保険制度があり、手厚い国民年金制度があり、日常的に(有症状でなくても)医療や介護福祉サービスが受けられます。

日本の人口当たり医師数は決して多くはありませんが、日本は看護師さんをはじめとした医療従事者の数がとても多くて、且つプロフェッショナルとして非常に優秀です。

優れた医療サービスがいくつも身近にあって、自分でいつどこに行くかを選ぶことができます。医療機関へのフリーアクセスは日本では普通のことですが、世界では特別なことです。

 

さらに介護福祉施設や健康施設は、都会だけでなく、地方でも充実しています。多くの高齢者がサービスの恩恵を受けています。

このため、日本人高齢者では肥満の割合も低いですし、健康的な生活習慣を維持している人の割合が高いです。高齢者の体力テストのスコアは年々よくなっていますし、健康寿命の延びが平均寿命の延びを上回っています。

 

新型コロナ感染症の拡大で、病院に行くのを控えるということもありましたが、少なくとも高齢者は多少頻度を落としたとしても通院を止めませんでした。新型コロナ感染症に限らず、各種の肺炎は、死にそうになっている人の背中を最後に押して死に至る病気です。早期に診察を受けて、適切な対症療法を施してもらえることが大事だと思います。

 

「新しい生活習慣」でも、高齢者と具合が悪いと感じた高齢者以外の人の生命と健康を守ってきた「ファクターX」を失ってはいけないです。病院の待合室が、お年寄りの社交場になっていてもいいではないですか。地方では、1日4便のコミュニティバスで通院するお年寄りは、5分の診察より、次のバスが来るまで2時間のお喋りが健康の源だったりします。

 

実はこのファクターXは結果として国の医療保険費負担を軽くすることにつながっています。健康維持や介護福祉のサービス、医療機関での早期診察・早期治療によって、重篤な症状になるまえに対処することによって、高度医療の高額な費用が避けられているのです。

財政の問題もあるのですが、日本の現行医療介護保険制度を、負担率をあまり上げないままで維持するほうが、結果的には経済性がいいと思います。新型コロナ感染症の直接的な健康被害を軽減できていることでも実証されたわけです。

 

結論として、高齢者にとって通院は不要不急ではありません。高齢者でない人も、何か気になることがあったら、ひどくならないうちに、とりあえず病院に行きましょう。それが、健康維持の基本です。過度に新しい生活様式にこだわって、不健康になって惨めな人生を送ることを選ぶこともないでしょう。