新型コロナ。フォーカル・ポイントを見つける

フォーカル・ポイント、この場合は「期待値の収れんする点」という意味です。

 

数人の人に「正の数のなかで思いつくものを紙に書いてください。もし、全員が書いた数字が同じだったら素敵な賞品を出します」と言ったとします。恐らく、多くの人が「1」と書くのではないでしょうか。正の数は無限にあるのですが、他の人が自然に取るだろう選択を考えれば。2でも7でも100でもなく「1」を選びそうです。

 

トーマス・シェリング
トーマス・シェリング

フォーカル・ポイントは、シェリング・ポイントとも言われます。アメリカの経済学者トーマス=シェリングが1960年に「紛争の戦略」という本で示した概念です。

 

当時の世界情勢では、いつ東西の間で核戦争が起こっても不思議ではありませんでした。しかし、実際は限定戦争は起きても核戦争に至りませんでした。

それは、双方がフォーカル・ポイントを見出していて暗黙の調整が成り立っていたということです。

フォーカル・ポイントは、利害が対立するもの同士であっても存在します。

 

ビジネスゲームでもフォーカル・ポイントはよくでてきます。

どの会社も競合しているライバル企業を出し抜いて利益をあげることができないポイントがあります。つまり、自分の会社がライバル企業の予測通りのビジネスをしないと、お互いが損失をこうむるというポイントです。

ビジネスで成功するには、お互いに意思疎通がとれない不完全な環境のなかで、偶然に左右されながら形成されているフォーカル・ポイントを正確に把握することが大事です。

 

政府は「新型コロナとの闘い」と表現しています。破滅的な戦争に突入せず、その一歩手前で限定的な紛争にとどめて安定させるにはフォーカル・ポイントを見つけることです。

 

ウイルスとコミュニケーションを取ることはもちろんできませんし、感染した人やその家族、経済的な影響を受けている多くの事業者、煽るマスコミ、さらに世界各国、国際機関などなどとのコミュニケーションやすり合わせは不可能です。それでもフォーカル・ポイントはあるわけです。そろそろ、見つけなければなりません。

 

☞ シェリング『紛争の戦略 ゲーム理論のエッセンス』 

「本書は、ゲーム理論を用いて戦略的意思決定のさまざまな問題を解き明かした古典的名著である。核抑止、限定戦争、奇襲攻撃といったなまなましい国際政治上の問題をつきつめて分析すると同時に、交渉、コミットメント、脅し、約束など、人間社会に普遍的な問題についても、いくつもの重要な知見を提供する。」(勁草書房)