気象情報が簡単に手に入ることの弊害

NHKラジオで1日に3回気象通報という20分の番組をやっていました。今は1日に1回です。

 

気象通報という番組は日本とその周辺の気象データ(風向・風力・気温・気圧)を順次読み上げるだけの番組です。「石垣島では南の風・風力4・・・、」といった具合です。山に行っていた学生時代にはいつも聞いていました。夏山のテント場ではどのパーティーも16時の気象通報を聞きながら天気図を書いていました。

 

天気図用紙
天気図用紙

現在では山に登ってもスマホなどで簡単に天気図を見ることができます。

気象情報は気象庁の独占ではなくなって、多くの専門会社がユーザーのニーズにあった情報を的確に提供しています。登山者向けに特化した気象サービスも日本気象協会をはじめ複数の会社が手掛けています。登山者がその後の行動を決めるのに役立ちます。

 

一方で、以前は、聞き取るのに苦労するようなラジオからの僅かな情報である気象通報を頼りにして、天気図を描く。この天気図と、観天望気(周囲の風・気温・雲・霧などの状況を観察する)の情報から、気象の素人である登山者がその後の天気を予想して行動を決めていたわけです。

 

現代のやり方が合理的なのかは疑いようがありません。しかし、山岳遭難が増加しているという事実もまた疑いがないのです。

 

平成30年の山岳遭難は、 発生件数2661件(前年対比+78件)、遭難者3129人(前年対比+18人)、うち死者・行方不明者342人(前年対比-12人)。発生件数、遭難者数は、統計の残る昭和36年以降最も高い数値。

10年前の平成21年と比較すると、発生件数 +985件(+58.8%)、遭難者 +1044人 (+50.1%)、死者・行方不明者 +25人(+7.9%)でした。

 

遭難に至った原因はいろいろでしょうが、気象を見誤ったというケースもたくさんあります。以前より、山の天気に対する恐れや不安が行動を慎重にさせるということが減ったのかも知れません。風向きが変わったとか、気温が下がった、雲の形が違うといった周囲の状況にも気を配らなくなっているのかも知れません。

 

さらに、最近では山に地図と磁石を持たずに行く人もおられるとか。地図も磁石もスマホがあれば必要ないのだそうです。GPSで自分の位置はわかるので大丈夫ってことなのでしょうが、遭難者のなんと4割近くが道に迷って遭難しているのです。最新のテクノロジーで情報を入手しても、それを読み取る知識がなければ危険です。

 

確かな準備をして、きっちり登山計画を提出して、万全の体調で山を楽しんでいただければと思います。