改正水道法について水道を民営化すると危険だと不安視する報道が見られます。
水ビジネスの一端に関わっていた時期があるので、報道の内容には少し異議があります。日本の水道が、現時点で世界のどこよりも安全安心であるというのは事実です。だからこそ、この安全安心な水道インフラを世界に拡げていって欲しいと思います。
現在の日本の水道事情は諸外国とかなり違います。
日本の水道事業は、企画設計から施設建設までを担うエンジニアリング企業と、保守整備を含めた事業運営をおこなう地方自治体(水道局=地方公営企業)という分業体制です。
エンジニアリング企業へは、水道に関する部材や製品を供給するメーカーと実際の建設をするゼネコンがついています。
自治体の事業運営にもO&M事業者が支援するのが通例です。
海外で、水資源が豊富で十分に確保できている先進国・中進国の場合には、この企画設計から事業運営までを一貫して民間会社がおこなうケースが一般的です。水道事業をビジネスとして民間企業がおこなうことに経済合理性があります。
一方で、世界には水資源に恵まれない国や地域がたくさんあります。世界で生きるための水を確保できない人が20億人を超えていることに日本人は気づきにくいです。これらの国では水道事業は、国家がおこなうべき重要な事業です。
しかし、水資源に恵まれない国には多くの発展途上国が含まれます。これらの国では、水道の企画設計や事業運営のノウハウが無いので、その全体を欧米の民間企業に依頼します。
この民間会社が、フランスのベオリア社とスエズ社、アメリカのGE社などの水メジャーをはじめとした欧米のグローバル企業である場合が多いわけです。さらに、最近では中国や韓国の大手企業もアジアやアフリカの水道事業に参入しています。
世界の水道事業の10%近くを、これら欧米を中心にしたグローバル企業が担います。
日本の事情は、水資源に恵まれる先進国という観点では民間企業が担うことが一応は合理的です。しかし、日本の特殊事情として災害が非常に多く河川管理や治水に多くの手間がかかるということ、人口の集積・偏りが極端であること、農業用水の確保が優先されることなどがありました。このため、事業運営を地方自治体がおこなうことに合理性があったわけです。
今回の水道法改正への反対意見の根っこは、やはりここにあります。
しかし、人口減少時代を迎えた日本では全ての地方自治体が公設水道を維持する合理性は薄くなっていきます。水道事業を民営化できるという法改正は必然のように思います。
そして、民営化の先に見えるのが日本が安全な水で世界に貢献するという方向性です。
世界の水メジャーも水資源に恵まれない国々でも、水処理技術やその機材や資材は日本企業に大きく依存しています。世界の海水淡水化や水リサイクルに使用される水処理膜の過半数は東レや日東電工など日本メーカーがつくっています。日立プラント、三菱電機、東芝、旭化成、クボタなど、№1・Only1技術が目白押しです。
エンジニアリング企業も、日揮・東洋エンジ、千代田化工の3大エンジは海外インフラの実績は十分ですし、IHI、三菱重工、栗田工業、オルガノ、水道機工、三菱化工機、日立造船など専門エンジ会社も充実しています。
これらの民間企業に無かったのが事業運営のノウハウというか実績です。今回の改正水道法によって、国内の水道事業に門戸が開かれたことで、民間企業が事業運営のノウハウを身につけて実績とする機会が生まれました。
既に北九州市がカンボジア・プノンペン市の水道事業を担うといった例もでています。今後は地方自治体と日本の民間企業が共同して世界の人々に安全な水を届けることが期待されます。
世界人口は2050年には100億人に達する予測です。今のままでは40億人は安全な水を入手することができません。この問題の解決は、日本企業の技術がなければ、決してできないことだと思います。