西野監督の意思決定を中小企業診断士の目線で解説する

サッカー日本代表がW杯1次予選のポーランド戦の終盤に故意に負ける戦術をとりました。

 

経営トップがおこなう戦略的意思決定について、アンゾフは部分的無知の下でおこなわれ、客観的な根拠に必ずしも基づくものではないと言っています。

日本(青)vsポーランド(白)
日本(青)vsポーランド(白)

これに対して、ミドル(部長や課長)がおこなう意思決定は管理的意思決定(戦術的意思決定)と呼ばれ、既知の情報による客観的な根拠に基づいておこなわれます。

ロアー(係長や主任)がおこなうのは業務的意思決定(戦闘的意思決定)で定型的で繰り返しおこなわれます。

 

西野監督がポーランド戦の終盤にとった意思決定は、客観的な根拠に基づいているのかというと、違うように思います。

日本対ポーランド戦もコロンビア対セネガル戦も試合終了まで10分以上の時間が残っていました。ポーランドが攻めてこないという根拠、セネガルが得点しない(=コロンビアが失点しない)という根拠、日本の選手が反則を取られないという根拠・・・、あったでしょうか?

特に、コロンビア対セネガル戦を実際に観察しているわけではなく、何らかの伝聞による情報しかないわけです。

 

当然ですが、トップの意思決定はリスクを伴うものです。失敗したときのリスクの大きさを考えれば、日本代表は反則を極力避けながら1点を狙って引き分けを目指すという作戦のほうが客観的に合理性がありそうです。

 

しかし、アンゾフが言うようにトップの意思決定は部分的無知の下でおこなわれるのです。それでは、客観的な分析以外にトップが意思決定する要因は何か?と言えば「信念」です。よく言われるように、経営理念とかポリシーとか言われるものです。

 

一般の会社では、「社会に貢献する」とか「独自の技術にこだわる」といったポリシーを掲げることが多いと思います。例えば、「社会に貢献する」という判断基準を持ったトップは、部分的無知の下で判断に迷った場合に、どちらの意思決定がより社会に貢献するか?(仮にそのとき利益が減っても)という判断をします。

 

さて、西野監督の「信念」は何だったかです。「スポーツマンシップ」とか「チームの尊厳」ではなかったわけです。明らかに「トーナメントへ進出する可能性を高める」というのが監督(あるいは日本チーム)の信念だったわけです。

 

つまり、部分的無知の下で、可能性という不確実な信念を基準にした意思決定をおこなったということになります。トップの判断は本当に難しいですし、今回は結果的に成功したように思えますが、紙一重だったでしょう。

最も優れた経営者は強運の経営者だと言います。西野監督の強運に期待が高まります。

 

《追記》西野監督の判断が合理的だったと解説する人は、優秀なミドルリーダーにはなれても、卓越したトップにはなれないってわけです。