会社は懲戒権を濫用してはならない

国会は立法府ですが、法律を無視することが多いので見倣うと大変なことになります。

 

就業規則
就業規則

セクハラ疑惑の次官に対して、懲戒解雇にして退職金を支払うな!という話が聞こえてきます。

「国民の声を聴け!」とか言っていますが、そんな"国民”はどこにもいませんから、人民裁判まがいです。

 

さて、社外の女性が「男性社員から社外で1対1で会っていた時ときにセクハラされた」と会社の取引先に話してまわられたとします。会社としては迷惑です。

その社員が辞表を提出してきたとして、会社がこれを受け取らずに、辞職でなく懲戒解雇にして退職金を支払わなかったらどうなるでしょうか?

 

「おまえ、会社に迷惑掛けやがって、許さん!」なんて感情に任せてはいけません。

あくまで、懲戒は就業規則に決められたことしか実施してはいけません。決められていないことをするのは、違法です。

 

先ず、上記の行為は、大抵の就業規則で懲戒理由に定めている「セクハラ」に該当しません。セクハラの定義は、"他の者を不快にさせる職場における性的な言動、及び他の従業員を不快にさせる職場外における性的な言動"というのが一般的です。

 

社内であれば従業員以外の相手(来客や出入り業者)が対象でもセクハラです。社外ならほかの社員が対象の場合です。

つまり、会社の秩序を乱すことは懲戒の対象になりますが、社外での私的な事由は会社が従業員を懲戒することができるセクハラには該当しません。

 

次に、「職務外の非行」として懲戒の対象になるかどうかを判定します。 

仮に、相手が心身に傷害を受けて傷害罪でその社員が逮捕されたとします。

これは、職務外の非行です。

但し、逮捕されたことだけを持って解雇することは認められていません。この犯罪が、”不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき”に該当するかどうかを総合的に判断して決めることになります。

 

社会的な通年として、解雇が相当なほどの犯罪であることが必要です。殺人・強盗・放火などの罪名であれば解雇相当になりそうですが、傷害罪はそうではありません。また、逮捕されただけでは無罪推定の原則から、いきなり解雇していいかは慎重に検討します。

 

逮捕などの事実がなく会社の評判を傷つけただけの場合でも、”不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚した”ものに当たれば懲戒対象になる可能性があります。

 

但し、その過程が正常でなかった場合の判断も必要です。

今回の事案で言えば、秘密録音の公開です。秘密録音は違法ではありません。しかし、相手の名誉を傷つける意図で秘密録音を公開したので名誉棄損罪は成立しています。ただし、この行為に公益性があると、公開した側が証明できれば免責されます。

 

次官の場合は上級公務員ですから、名誉棄損が免責される公益性があると認められる可能性も相応に高いと思います。しかし、民間人であれば難しいでしょう。

 

まとめると、民間会社の場合は、懲戒権を濫用することは慎むべきです。会社側としては、懲戒権の行使は、それ自体がリスクが大きいので、慎重に運用します。

 

<まとめ>会社が懲戒権を行使できる条件は以下の3つが揃っていることです。

1. 就業規則のなかに根拠規定があること

2. 懲戒事由に該当すること(合理性)

3. 社会通念上の相当性を有すること(相当性)