内部留保課税議論は国民を不安にする

企業の内部留保を目の敵にするのは、共産党の小池さんの口癖だったのですが、希望の党の小池さんにも伝染してしまいました。

 

日本全企業(金融保険除く)の合算貸借対照表
日本全企業(金融保険除く)の合算貸借対照表

 小池百合子さんが元々思っていたわけではなさそうです。ちょっと前に「企業の内部留保が400兆円を超えて過去最高」というニュースがあったので、連想ゲームのように、消費税増税の代わりの財源にしようと思いついたようです。

まぁ、共産党(左翼)ならともかくですが、保守を標榜する希望の党が言い出すとなると、国民は不安になります。

 

右の表が、大雑把に描いた日本の全企業の貸借対照表を合算したものです。(但し、金融と保険は除きます。)内部留保というのは、勘定科目で言えば「利益剰余金」のことです。2016年末で405兆円と推計されています。

405兆円に2%の税金を掛けると8兆円の税収になる(消費増税2%は5兆円の税収)という話です。

 

貸借対照表では右側がお金の調達先を表し、左側がお金の使い道です。企業のお金の調達先は、お金を借りるか、株主から出資してもらうか、売上で稼ぐか、3通りです。

日本の企業は1000兆円を借りていて、270兆円の出資を受けて、400兆円を稼ぎから貯めているわけです。この資本金と利益剰余金を合わせたものを株主資本(自己資本)と言います。

 

利益剰余金への課税が論理的に破綻している理由はたくさんあります。

利益剰余金は企業のお金では無くて株主のお金だからです。株主は会社に出資して、会社が利益を上げたら配当で還元してもらうわけですが、今は現金で返してもらうよりも会社の事業で運用してもらったほうが有利だから残っているのです。つまり、株主の財産(貯蓄)というわけです。

 

次に、利益剰余金(内部留保)は現金があることを意味しません。お金の調達先を示しているのに過ぎないので、貸借対照表の左側にある、材料調達や棚卸資産などの流動資産、設備や土地などの固定資産になっています。全企業で保有する現金は約200兆円ですが、大企業は現金をあまり持たないので半分100兆円は中小企業が蓄えています。

 

更に、二重課税の問題があります。利益剰余金は売上で稼いだお金ですから、稼ぎには法人所得税が掛かっています。世界的にも高い税率であることがよく問題になります。要するに二重課税ということになるので、無茶苦茶です。

 

更に更に、アメリカでは内部留保に課税しているじゃないか?という人がいます。雇用を自由に切ることができるアメリカと、新卒採用したら50年面倒をみる日本を一緒にしてはいけません。利益剰余金(内部留保)は、いざというときの貯金です。

リーマンショックのとき、アメリカの企業は従業員をどんどん解雇しましたから内部留保は減りませんでした。日本の企業は内部留保を取り崩して、可能な限り雇用を守りました。何かのときに会社を守り、雇用者を守るのは自己資本だけです。

 

他にもまだまだあるのですが、経済成長を続けるには選挙の票目当てだけで、こんな話が出てくるのは残念です。