電車が燃えた。彼方立てれば此方が立たぬ

小田急沿線のボクシングジムが火災になって、緊急停車した電車の屋根が燃えました。

 

小田急の車両火災?
小田急の車両火災?

小田急線の走るすぐ脇で火災が発生したので、警察の方が踏切の緊急停止ボタンを押したところ、電車が踏切手前で自動停止しました。ところが、運悪く火災が起こっている場所で電車が停止することになって、屋根から炎が上がって、大騒ぎになりました。

 

「電車って燃えないのではないか? 燃えるような材料で電車を作ってはいけないじゃないか?」と質問されたのですが、いろいろ難しいのです。”彼方立てれば此方が立たぬ”で、なかなか万能な材料がありません。

 

基本的に電車はステンレスとかアルミニウムのような金属とガラスで覆われていますので燃えません。一方で、電車の屋根の上には電線が通っていて高圧(直流1500V※)の電気が流れています。そこで、電車の屋根は電気を通さない絶縁材としたいのですが、金属は電気を通します。ガラスやセラミック(碍子みたいなもの)は電気を通さない絶縁体ですから、例えば屋根をガラスや陶器で覆えばよいのですが、重くなるのが欠点です。

 

そこで、絶縁性のある樹脂で塗装することで軽さが得られます。ところが、樹脂は素が石油ですから燃えます。そこで、樹脂を燃えにくくするために難燃剤というものを混ぜて難燃性の材料にします。難燃性といっても、炎を上げて燃えたじゃないか!と言われますが、難燃性とは燃えないことを意味しません。高温になればその部分は燃えますが、周囲はくすぶるだけで燃え広がることはないというわけです。実際に電車の屋根に燃え広がってはいません。

 

それでも難燃性をもっと高めるべきだと言われますが、およそ難燃剤は人体に有害です。アメリカなどでは、消防士の健康被害を防ぐために難燃剤の使用を抑制するような動きもあります。難燃剤をじゃぶじゃぶ使うわけにはいきませんし、あまり添加量を増やすとそもそもの絶縁性能の低下にもつながります。

 

というわけで、なかなか万能な材料はないのです。絶縁性と不燃性と軽さの3つを兼ね備えた材料といえば石綿(アスベスト)があったのですが、製造過程で肺がんや中皮腫の原因になることがわかって製造中止になりました。

”彼方立てれば此方が立たぬ”ですが、そのなかでベストチョイスを考えるということですね。

 

※9月14日訂正