メンタルヘルス(2)~経営者側が意識を変える

昨日の続きです。メンタルヘルスを成功させるには、経営者が意識を変えることです。

 

経営者には労働契約法第5条で従業員に対する「安全配慮義務」が課せられています。

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 」

ここで、対象が”生命”と”身体”と”等”ですが、等は精神(心)のことです。

 

「安全配慮義務」には、大きく分けて「危険予知義務」と「結果回避義務」があります。

「危険予知義務」は、文字通り労働者の生命や健康を損なう懸念があるのかないのかを予め知っておくという義務です。「結果回避義務」は、懸念があるのであれば、それを回避するように対策をとる義務です。

 

東日本大震災のときに複数の事案で「安全配慮義務」が議論になりましたが、これまで以上に広く認定されたと思います。例えば、巨大地震の揺れを危険予知する義務は無かったとしても、その後の津波の危険を予知する義務はあったという判決が出ました。また、津波の大きさも20mの津波を予見できなかったとしても、避難の呼び掛けを耳にした時点で危険予知の義務が発生しており迅速な避難がされなかったのは安全配慮義務違反とされました。

 

安全配慮義務には、具体的には以下の5つがありますが、どれも難しい課題です。

 

1.労働者の健康状況の把握・・いきなりの難問です。最大の難しさは労働者側が自身の健康状況を教えたがらないことです。身体の状況は健康診断の結果である程度は正確にわかりますが、心の健康は見えません。専門医の診断というわけにはいかず、ストレスチェックのアンケート調査に頼らざるを得ませんが、意識的に隠して回答されるとお手上げです。

経営者は、それでも、あきらめずに労働者の健康状況の把握に努めることが必要です。

 

2.労働者に適切な労働環境を付与・・これも難問です。何が適切で、どれほどだったら不適切なのかは容易にはわかりません。少なくとも、法律で定めている基準(事務所の照明や空調についても法律の定めがあります)を完全にクリアしていて、どの程度の上乗せができているかが評価の分かれ目です。

 

3.労働者の配置・職務を適正に配置・・これも難しいですが、やるしかありません。こころの病気の原因を大きいほうから並べると、1)人間関係>2)仕事の質>3)仕事の量 となります。実は、長時間労働のリスクよりも人間関係が重要なファクターです。

経営者は人の配置の重要性を認識して、目配り気配りを怠ってはいけません。

 

4.必要な治療や休息を与える・・ここで問題になるのは、会社が労働者に医師の診察を強制させることができるのかです。必要な治療のためには、診察が必要なのは当然ですが、会社が指定する診察を拒否する人は多いです。説得するしかないのですが、容易ではありません。

 

5.その他必要な措置・・経営者に丸投げです。昔であれば、慰労会とか社員旅行なんかもあるのですが、今やそんなイベントのほうがストレスの原因と言われます。事務所に休憩スペースなんて作ろうものなら、総スカンを食らうかもしれません。

経営者としては、良かれと思うことは積極的に取り組んでみて、ダメならさっさと撤回するくらいの気持ちが必要です。

 

いずれにしても、経営者が一人でできることではありませんから、管理監督者や職場の皆さんとコミュニケーションをとって、地道に進めることが肝心です。頑張りましょう!