社員教育することにもリスクがある

 プロ野球はポストシーズンに入って、フリーエージェントによる移籍の話題が出ています。

 

 過去、広島カープは、一生懸命に育成した選手がフリーエージェントでライバル球団に異動する経験をたくさんしてきました。

 プロ野球選手の場合、広島カープでも北海道ファイターズでも、極端な話、マイアミマーリンズでもシカゴカブスでも、世界中どこでも求めるスキルは同じです。いくら選手を育成しても、成長して活躍できる選手に出ていかれると、チームは勝利することができません。

 

 例えば、年棒1000万円の選手を、最適なトレーニングと身体的ケアをしたうえで、きちんとコーチして年棒1億円の選手にしたとします。また、選手の育成には球団が総額で5000万円の費用を掛けたとします。

 球団としては、選手の価値を9000万円上げるのに5000万円掛けたのですから、1年あたりで4000万円が利益になります。選手が、この後3年間は同じパフォーマンスを上げるとすれば、4000万円+9000万円×2年=2億2000万円の利益が見込めます。

 

 ところが、他球団がFA権を獲得して、選手に1億2000万円の年棒を約束して、選手が去ったとします。球団は金銭補償で旧年棒の1.2倍の1億2000万円を移籍先の球団から得ますが、1億円分の利益を失います。これでは、球団が選手の育成に多額のお金を掛けるのが、不合理になります。

 

 フリーエージェント制がなく、補償がされない民間企業の場合には、しっかりと人財育成をして、社員が有能になったと思ったら、自分で転職したり、他社に引き抜かれたりするのは困ります。この場合は、掛けた育成費用は丸損です。

 そこで、会社としては育成費用の元をとるまでは、他社に移籍して欲しくないと考えます。そこで、あらゆる手を使っても自社に拘束しようとします。特に、会社として海外留学をさせたエリート社員が、帰国後すぐに他社に移籍するなんていうのは、人事部にとっては悪夢です。

 

 しかし、職業選択の自由は自由権の一つで、日本国憲法22条に規定されていますので、会社側から拒否することができません。

 このジレンマを解決する方法は、社員教育を汎用性の高いものにしないで、自社でだけ通じるような内容にすることなどがあります。とは言え、自社に関連の深いスキルは、競争相手の会社にとっても必要なものですから、油断できません。いくら競業避止義務とか言っても、退職してライバル会社に移った社員を制約するのは困難です。

 

 人財の流動化が進んだ業界や会社では、人財育成の進め方は難しい問題です。

 また、アルバイトやパートタイマーの方の育成にも、きちんとした方針を持たなければなりません。社員教育は徹底的におこない、仮に他社に転職されても、社会全体への貢献になるから構わないと、割り切れればよいのですが・・。