下請保護政策には御用心

 首相や経産相が、「中小企業の下請け取引の条件改善に全力で取り組む」と発言しています。

 

 以前から、このブログでも書いたことがあるのですが、下請法の遵守や下請取引の適正化という政策は、中小企業の役に立つか、それとも首を絞めるのか?

 私見ですが、長期的にはネガティブな結果になる恐れも大きいので御用心です。

 アベノミクスで景気上昇とは行かないまでも、悪くはなっていない足下の経済環境を冷やしてしまう心配があります。

 

 日本の事業者の数は約382万者ですが、大企業は1万1000者です。

 0.3%にも満たない数です。残りの381万者が中小企業・小規模事業者です。

 これを更に分けると、小規模事業者が325万者で、それ以外(中規模事業者)が56万者になります。

 

 ここで、小規模事業者というには製造業などでは従業員20人以下、商業・サービス業では5人以下の事業者をいいます。これは会社だけではなくて個人事業主も含まれます。小規模事業者の6割強は個人事業主です。小規模事業者で働く人は平均3.5人です。実質的な雇用をしていない(個人あるいは家族だけ)事業者は数多いです。

 

 さて、中小企業の業績も向上してきたので、そろそろ賃上げをして欲しいというのが政府の考えのようです。その場合に想定してる中小企業とは、一定の雇用がある中規模事業者56万者のことでしょう。

 中規模事業者の数は増えてきています。(過去2年間で4.7万者)

 

 増加側で一番多い要素は、小規模事業者が規模が大きくなって(つまり雇用を増やして)中規模の仲間入りをするケースです。(過去2年間で6.8万者)

 この伸びている6.8万者が日本全体の経済を牽引している可能性が高いです。

 ※雇用を減らして小規模事業者になった事業者は6.3万者です。

 

 小規模から中規模に伸びている会社は、簡単に言えば下請依存から脱して、一部では元請の立場になってきます。そうして、それまで下請をしていた大企業と対等なビジネスをしようということになります。

 

 ここで、大きな障壁になるのが、下請取引条件の適正化です。

 既に大企業になっている会社は、仮に適正化を指摘されても対応は可能です。もともと適正でなかった下請取引条件で貯めた利益もあります。

 ところが、小さい会社がコツコツと大きくなっていく過程で、下請を使うようになった場合には取引条件適正化は大きな重荷になります。

 つまり、下請取引条件適正化は、下請は下請、大企業は大企業、という格差というか階級を固定する懸念があります。下請でいたほうが、安楽ではないか?と向上心を削ぐのです。

 

 それでも、中小企業・小規模事業者は高みを目指さなければなりません。

 経営者は自社の財務体質に目を配り、資金繰りのツボを自分で押えておくことが、今まで以上に必要になってくると心得ましょう。