日本永代蔵(前編:1~10)まとめ

井原西鶴・日本永代蔵の連載も、三分の一が終わりましたので、ちょっとおさらいします。

 

日本永代蔵は、今で言えば「経済短編小説集」です。全部で30の物語が描かれていますので、先週まででちょうど三分の1になりました。少し、解説をしておきます。

 

作者の井原西鶴について、名前を知らない人はいないと思います。

寛永16年(1641年)に裕福な町人の子として大阪に生まれます。若いころから俳諧に親しんで、40歳になる頃までは俳人として有名でした。40歳から小説家に転身して、41歳で「好色一代男」を書いて一躍人気作家になります。多くの作品を出版するなか、47歳のとき「日本永代蔵」を出版します。元禄6年(1693年)に52歳で亡くなります。当時としては、平均的な寿命です。

 

時代背景でイメージしやすいのは、徳川幕府の5代将軍・徳川綱吉(1646年~1709年)です。井原西鶴より5歳若く、ほぼ同時代人です。綱吉が将軍職についた1680年は、西鶴が小説家へ転身をした年でもあります。西鶴の小説は全て綱吉の時代に発表されました。

 

ざっと330年前のことです。当時の世界に目を向けますと・・

アメリカの独立(1776年)より、更に100年ほど前です。

ヨーロッパは三十年戦争から続く革命と反乱の時代です。地球が寒冷期であったことから、世情が不安定で魔女狩りなども行われていました。

中国は清朝の最盛期を迎えようとしていました。西欧列強の進出はまだ先のことで、台湾を併合し、ロシアとの国境線を北に押し上げ、朝鮮・チベット・ベトナムなど周辺国も従属させました。

 

こんな時代の小説なのですが、経済小説として全く古さを感じません。日本では江戸時代初期の段階で、自由な経済活動が成熟しておこなわれていたことがわかります。結構、すごいことです。

 

それでは、これまでの10編の主題をおさらいしておきます。

【 】の教訓は、今でも同じように通用します。

 

1・初午(はつうま)は乗ってくる仕合せ(しあわせ)

お金を貸して高利で儲けようなどと欲深なことをするより、商いの才覚を効かせて働いたほうが儲かるし、蓄えた資金も長続きする。【商売で大切なのは、貪欲ではなく才覚!!】

 

2.二代目に破る扇の風

金を貯めるには長い時間が必要だが、失うのには時間は不要です。特に創業者から事業承継した二代目は注意しましょう。【大きな財産でも失うのはすぐと心得る!!】

 

3.波風静かに陣痛丸

たとえ僅かな収入でも、毎日ひたすら貯蓄をします。ここで蓄えたお金が自己資本となり、この金で起業すれば利益がでます。【起業するなら、自己資金の蓄積を先にする!!】

 

4.昔は掛算(かけざん)今は当座銀(とうざぎん)

商売は過当競争に巻き込まれるとうまくいきません。少しの工夫で、新しいビジネスを創造することがあります。【競争に勝つには、新しいビジネスの創造だ!!】

 

5.世は欲の入れ札に仕合せ(しあわせ)

能力や経験が乏しくても、他人の目を気に掛けず、一所懸命に働くことです。その折、廻りの人に迷惑掛けないことは大切です。【資産運用はリスクを避けて慎重に!!】

 

6.世界の借家(かしや)大将

金持ちになるのは簡単です。収入未満の支出しかしなければ、必ず金持ちになります。経営者も従業員も、全員が気持ちを合わせます。【無駄な支出は決してしないと肝に銘じる!!】

 

7.怪我の冬神鳴(ふゆかみなり)

借金は利子を取られるので嫌いですからやりません。厳密な経理をおこなって手元現金の水準

を低く抑えていましたら天災に巻き込まれました。【危機に備えて、手元現金に余裕を持つ!!】

 

8.才覚を笠に着る大黒

ギャンブルで身を持ち崩した二代目です。心入れ替えて働き、商人としての才覚を発揮して、復活しました。【再チャレンジには、営業戦略を練り上げる!!】

   

9.天狗は家名風車(いえな・かざぐるま)

鯨を捕獲した男は、いろいろな工夫をしてみます。それまで捨てていた骨を使って、大きなビジネスをして大当たりしました。【成功するには、工夫を繰り返しおこなう!!】

 

10.船人馬方鐙屋(ふなびと・うまがた・あぶみや)の庭

経営者には、コアビジネスを守る人が向いています。 営業マンには、積極的で攻撃的な人が向いています。【攻撃するために、活きのよい情報を獲得する!!】