悪い局面でも粘る・・羽生名人の「大局観」

「散り際の美学」にこだわると、勝てる試合を勝ちきる力を失ってしまう。

 

将棋の羽生善治名人は、古今数多の棋士がいるなかで、抜け出た存在です。

現代の将棋には七大タイトルがあるのですが、その七冠を同時に保持した唯一の棋士であり、竜王を除く六大タイトルでは永世位を保有しています。45歳になった今日でも、名人・王位・王座・棋聖の4つのタイトルを保有しています。

羽生さんの現在までのタイトル獲得数は94回ですが、現役で2位は将棋連盟の会長である谷川浩司さんの27回ですから圧倒的です。3位は渡辺明竜王の16回です。

 

羽生名人の著書はどれも面白い。「決断力」「適応力」「直観力」「大局観」「捨てる力」・・は経営のヒントになります。将棋の技術書としては、「羽生の頭脳」「羽生の法則」などもあります。

 

プロの将棋は自玉が詰んでしまうまでは指しません。絶対に自分が勝てない絶望的な局面で、投了をして勝負を終えます。この投了のタイミングが結構難しいそうで、あまり悪あがきをしていると、終局図を汚してしまいます。相手の力量を信用して「散り際の美学」にこだわって、早めに投了する棋士も多いそうです。

 

しかし、「散り際の美学」にこだわり過ぎると、悪い将棋を粘って価値にする力を失い、本来は勝てる試合を勝ち切る実力が身につかないということもあるそうです。

羽生名人の通算成績は、1335勝517敗(勝率 0.7208)と、プロ棋士のなかで断トツです。

今年度の成績は、ここまで26勝13敗(勝率 0.6667)です。羽生名人の場合、7つのタイトルのうち4つは挑戦者としか対戦しません。残り3つの棋戦でもシードされたり、トップリーグに入っています。つまり、激戦を勝ち抜いた強くて調子のいい相手とだけ戦って、7割勝っています。

 

そんな羽生名人でもこれまで517回は負けているわけです。著書にも「負けに不思議の負けなし」と、勝ちよりも負けから、多くを学んでより強くなっているそうです。

ちなみに、将棋の世界で最も多く負けているのは、テレビで大人気の”ひふみん”こと加藤一二三さんです。なんと1155敗(尚、勝数は1320勝で羽生名人に抜かれるまで1位)です。

成績が下がると、強制的に引退させられる将棋の世界で、これだけ負けるのも凄いことです。

 

 

さて、いくさは負けると命を落としておしまいというケースもあるので、 将棋とは違うのですが、大河ドラマ「真田丸」の真田家家訓は、真田幸隆が残した「命を粗末にしない・どんなことがあっても生き延びる ・草や、泥を食っても生きながらえる 。九分九厘死ぬと思っても ・最後の最後まで生きることの算段をして・命を全うする」だそうです。 

 

絶望を見極めることができないうちは、徹底的に抵抗するのが正しい道です。「死中に活を求める」というのは、まだ絶望するには早すぎたということです。

もし窮地に陥ったとしても、本当に諦めなければならない状況なのか、よく考えてみたい。

 

最後に敗北したとしても、負けのなかで何かを必死に掴みたいと思います。綺麗に美しく負けることはないですね。「死ぬまで生きる」です。