陽はまた昇る【映画】

2002年に公開された映画です。日本ビクターのVHS開発プロジェクトを描いています。

 

偶然、今日のお昼にローカルのテレビで流しているのを観ました。こういう映画があるのは知っていましたが、観たのは初めてです。(主なキャストは西田俊行・渡辺謙・仲代達也・・)

 

映画の舞台は、1970年代の中頃。当時、ビデオは業務用でホームビデオはありません。

 

その頃、業界8位の弱小メーカーだった日本ビクターのビデオ事業部は業績悪化に苦しんでいました。

人員削減などリストラは必至の状況です。新たにビデオ事業部長となった加賀谷(西田敏行)は、次長の大久保(渡辺謙)らと共に起死回生の策として、工場の空きスペースを利用して自前のホームビデオ開発に乗り出します。

 

この開発が結実するより早く、1975年にソニーが画期的なホームビデオ、ベータマックスを発売します。当時としては驚異的なハイスペックモデルで、発売当初から先進ユーザーに人気となりましたが、録画時間が1時間という欠点がありました。

 

遅れること1年余り、1976年に加賀谷たちのホームビデオ:VHSが完成します。性能ではベータマックスに劣るところもありましたが、録画時間は2時間で、機構はシンプルで軽量な製品です。

通産省から規格統一の圧力を受けながらも、懸命な努力の末、松下幸之助(仲代達也)の後援を受けることになったVHSは商品化されていきます。

 

 

その後、ベータとVHSという二つの規格による「ビデオ戦争」は、ベータマックスの2時間モデルが発売された1977年から1980年代半ばまで熾烈に繰り広げられます。

 

私が入った会社は、このビデオテープ用の磁気記録用材料を生産していました。ちょうど、入社したのは「ビデオ戦争」の最終段階です。1984年、VHSがベータに打ち勝って勝利を確保します。ソニーがVHSの併売を開始するのは1988年で、ベータの生産を止めるのは2002年です。

 

さて、磁気記録用材料というのは、長さ1ミクロン未満のガンマ型酸化鉄の磁性粉末の表面にコバルトフェライトをコーティングした粉末です。この磁性粉末をテープの表面に塗布してビデオテープが出来上がります。

ベータに比べてVHSのカセットはひと回り大きいので、磁性粉末の使用量も多くなります。磁性粉末の主な性能は「保磁力」(磁石としての強さ)ですが、当時のVHSでは650Oeくらいで、ベータでは600Oeほどでした。VHSのほうが、強い磁石なのでコバルトフェライト層の厚みが増えます。当時のコバルトは、アフリカの紛争地区でしか産出しておらず非常に高価な材料でした。

 

要するに、ビデオ戦争でVHSが勝利したことによって、磁性粉末の生産量は増えて、販売単価も高くなります。生産は忙しくなり、売上高も上がることになりました。

もちろん一筋縄ではいかないのですが、入社早々に仕事がたくさんありました。先輩たちもみんなが忙しかったので、早い時期に重要な仕事を任されたことは幸運だったと思います。

 

ちなみに、会社では(最後は試作ラインでほとんど手作りに近いやり方でしたが)ベータ用の磁性粉末の生産も最後までさせてもらっていました。

そして、昨年11月にビクターのVHSテープ供給も終了しました。家電史上最大の商品だったVHSビデオは40年間余り続いた幕を閉じます。