合意形成には第三の道を見つける

 意見の対立がある場合に、”足して2で割る”式で決着させるのは後で苦しむことになりがちです。

 

  誰もがまとまると思っていたTPP交渉が閣僚会議で合意に至りませんでした。あまり詳しくはないのですが、乱暴に言えば”ニュージーランドが輸出したい乳製品”と”アメリカが守りたい製薬の知的財産”というのが残る焦点のようです。

 

 甘利大臣が、「過大な要求をする国」と名指しを避けながらも日本の大臣としては珍しく強い反発をしました。ニュージーランドは酪農王国で日本の4分の1のコストで乳製品を生産できるそうです。じゃあ、貿易自由化で安くなるので日本の消費者が幸せかと言うとそうでもなさそうです。

 乳製品という場合、ミルク(牛乳)は生ものなので通常は貿易の対象にならずバターやチーズなどが対象になります。もしバターやチーズがどんどん輸入されると、これらはミルク(牛乳)の副産物ですから、日本の酪農家はミルク(牛乳)の値段をずっと高くして、バターやチーズに回していた分は廃棄するという将来が予想されます。でもこれは無理ですよね。つまり乳製品の自由化をすれば、日本の酪農が破たんして日本人がミルク(牛乳)を飲めなくなるという懸念です。

 

 製薬の知的財産のほうは権利保護の期間でもめています。新薬を開発する側の代表である米国は12年を主張して、ジェネリック薬品として使用する側の新興国は5年を主張しています。間に入って日本が9年くらいでどうか?とまとめようとしているようです。

 実は、乳製品で強硬にでているニュージーランドも、この新薬保護期間での譲歩を求めているのが真意かも知れません。乳製品でもっともダメージがある日本に、米国を説得させて保護期間を9年でなく7年で決着させたいといった意味です。

 

 会社のなかでもいろいろな意見の対立は起こります。一般論なのですが、意見の対立を「足して2で割る」方式でまとめようとすると、後で苦しむことになりがちです。

 今回の件でも、12年と5年だから間をとって・・というのは結構難しいのかも知れません。

 特に5年と言っている国は複数あって、それぞれに事情と意図が異なります。国内にジェネリック薬品の製造業を持たない国もありますし、今は十分でなくても将来は自国での医療や科学技術の開発を目指している国もあります。また、ニュージーランドのように他の対抗措置を持つ国もあります。

 

 日本人は「足して2で割る」のが得意で、しかも向いています。お互いに痛みを分かち合ったということで納得して、決めるとその経緯はすぐ忘れて、素直に従います。気をつけないといけないのは外国の方との合意です。相手の譲歩は忘れても、自分の痛みのほうだけを忘れないで、あのとき譲ってやったじゃないかと長く思い続けるケースがあります。

 しかし、日本式が好いかと言うと、どうしても議論が深まらないままで決めるので、後になって新しい不満や争いが生まれることが多くなります。日本人同士なら、足して2で割ったことは忘れているので、新しい課題として取り組むこともできますが、必ずしも効率がいいわけでもありません。

 

 本当の意味での合意形成には、何故そういう意見があって、対立に至っているのかという真の事情を理解し合って、お互いに「第三の道」を見つけていくという姿勢が必要です。いろいろな機会に、訓練をしていかなければなりませんね。

 

 このところの、安保法制の議論や沖縄の基地工事の一時停止などのニュースを見ても合意形成の難しさを思います。お互いに、日本国憲法ができたとき、日本は独立国でなく、しかもその範囲は北緯29°より北だけだったという重い事実を忘れないことです。