先月亡くなった外山滋比古さん、「思考の整理学」という大ロングセラーで有名です。
「思考の整理学」は、1983年に出版され、1986年に文庫化されたのですが、これまで累計で240万部以上が販売されています。
東大生・京大生がよく読む本としても知られていて、両大学生協の書籍売り上げのトップを何度も獲っています。
この影響で、最近は年齢が下がって、高校入学の際に購入される方が多いということです。
外山滋比古さんは、1923年愛知県生まれの英文学者です。筑波大学、お茶の水大学、昭和大学で教育・研究に携わるかたわら、エッセイストとしても活躍しました。
去る7月30日に、がんのために96歳で亡くなりました。
外山さんが、20年ほど前に書かれたエッセイがたまたま目に入りました。ちょっと、抜粋してみます。
「カゼの徳」
いくら注意しても、冬の間に1度や2度はカゼにやられる。もっとも年をとると、すれっからしになるのか、小さな子のようにはひかない。・・・その代わり、いったんかかるとやっかいである。
(略)
カゼの経験の浅いうちは、なかなかよくならないのにいら立ったり、焦ったりするが、それでは心理的にもカゼに負けたことになる。まことにありがたくない相手であるが、ひいてしまったら、ひとときは付き合う覚悟をするのである。なにごとによらずケンカはいけない。
(略)
それと同時に、いくら気を付けてもひくものはひく。それに、たまにはカゼくらいひかなくては人間らしくないではないか、と開きなおった気持ちもある。とにかくゆっくり寝よう。いい休養である。
読みたいと思いながら読めないでいた本をゆっくり読む。どうもふだんより頭の働きがよいらしく、すらすら頭に入るような気がする。つい夢中になることもある。こうして読んだ本はあとあと強く印象に残るのも妙だ。
(略)
その快方に向かうときの気分がなんとも言えず、格別である。数日心細い思いをしたあと、暗雲から陽の光がもれるように心が明るくなる。やがてどんどん青空が広がって、気分が高揚するのである。まるで嵐のあと青空を仰いだようだ。そして日ごろはなんとなく灰色の日々を送っているのだということがかえりみられる。
(略)
カゼにかかるのはうれしくない。かかりたくはないけれど、こういう置きみやげがあるのはまんざれでもない。
カゼよ、来るなら、来い。